セレブロシド/CEREBROSIDES
セレブロシドとは
セレブロシドとは、動物の脳及び脊髄から得られる糖脂質であり、成分番号 556578、INCI名 Cerebrosidesの物質です(1)。
ドイツの神経化学者ツディクム (Johann Ludwig Wilhelm Thudichum; 1829-1901)は、世界で初めて脳からセレブロシドを分離しました。
哺乳類の細胞では、スフィンゴ脂質のスフィンゴイド塩基は、主にスフィンゴシンsphingosineです。
スフィンゴシンのアミノ基にアシル基がアミド結合するとセラミドとなり、そのセラミドにグルコースやガラクトースなどの単糖や二糖類または多糖類の糖鎖が結合したのが、スフィンゴ糖脂質です。
糖鎖の構造は、多様性に富み、非常に多くの種類があることが、報告されています(3)(4)(5)。
このうち、糖の部分に、単糖類が結合したものが、化粧品表示ではセレブロシドとされています。
この定義では、グルコシルセラミドとガラクトシルセラミドがセレブドシドですが、一般にセレブロシドと呼ばれるのは、ガラクトシルセラミドのことです。
セレブドシドには、その構造上、α体とβが存在します。
このうち、α-ガラクトシルセラミドは、理化学研究所によると、NKT 細胞(免疫系に関連するナチュラルキラー細胞とアレルギーに関連するT細胞の両方の性質を持った細胞)と特異的に結合し、活性化するとされる物質です。
このα-ガラクトシルセラミドと培養されたマウスの悪性黒色腫を、静脈内にワクチンのように接種することで、皮下接種した同種のがん細胞をほぼ完全に抑制する結果が得られています。
これは、活性化した NKT 細胞が体内にある樹状細胞を完全に成熟化して、免疫を誘導する作用によるものとされます。
この方法は、同時に複数のがんを抑制させることもできる方法で、特定の腫瘍抗原に対する免疫能力を高める従来の手法よりも使用しやすい方法で、がん・アトピー・喘息などの疾患の治療に関する研究や、免疫補強剤として利用研究が盛んに行われています(6)。
従来、セラミドを豊富に含む牛の脳がセレブロシドの抽出原料として利用されていました。
しかし、 BSE(牛海綿状脳症,いわゆる狂牛病)が発生し、1986年以降牛脳を原料として使用することは難しくなり、馬の脊髄から得られたウマスフィンゴ脂質のセレブロシドが使用されています。
また、トウモロコシや米糠,こんにゃく,タモギダケなど植物由来のセラミドであるセレブロシドが機能性食品や化粧品素材として利用されています。
ヒトデやナマコにもセレブロシドが含まれることが報告されており,セラミドの供給源として抽出濃縮が試みられています(7)。
働きと用途
セレブロシドは、セラミドを補い、肌を安定化させ、水分を保持する健康な肌に導きます。
肌の基底層では、スフィンゴ糖脂質の一種であるグルコセレブロシドが、肌の基底層で産生されて、角質層で分解酵素であるグルコセレブロシダーゼを介してセラミドに分化することが知られています。
培養表皮細胞を用いた試験では、セレブロシドを加えることにより、グルコセレブロシド分解酵素であるグルコセレブロシダーゼの活性が高まることが確認されています(9)。
また、ガラクトセレブロシドの皮膚塗布によって、グルコセレブロシダーゼの活性増加と角質層セラミド量の増加することが明らかにされています。
この作用はセラミドやグルコセレブロシドには見られないガラクトシルセラミド特有のものです(10)。
セレブドシドの配合目的
- バリア性
- 抱水性
- セラミド産生
セレブロシドの安全性情報
平成26年4月から令和3年3月までにセレブドシドの副作用は報告されていません(11)~(21)。
参考文献
(1) 日本化粧品工業連合会 セレブロシド 平成13年3月6日付医薬審発第163号・医薬監麻発第220号厚生労働省医薬局審査管理課長並びに同監視指導・ 麻薬対策課長通知
(3) スフィンゴ糖脂質 – 日本応用糖質科学会 (jsag.jp)
(4) II.スフィンゴ脂質について (niid.go.jp) NIID 国立感染症研究所
(5) スフィンゴ糖脂質の構造と機能 橋 本 康 弘 ・鈴 木 明身 油化学 第44巻 第10号 (1995) 730-737
(6) α-GalCer を活用した新しいがん免疫療法を開発-生体内樹状細胞の成熟で、さまざまながん細胞を排除 - 2007 年 10 月 23 日 独立行政法人 理化学研究所
(7) 未利用水産物からのグルコシルセラミドの抽出濃縮 佐々木茂文,田中彰,梅田智里,能登裕子 北海道立総合研究機構食品加工研究センター研究報告 NO.10 2013
(9) 杉山 義宣(2008)「皮膚の機能制御とスキンケア」化学と生物(46)(2),135-141.
(10) 原 真理子, 他(1996)「表皮のスフィンゴ糖脂質について」Fragrance Journal臨時増刊(15),109-116.
(11) 副作用報告の状況(医薬部外品)平成26年4月1日~平成26年7月31日
(12) 国内副作用報告の状況(医薬部外品)(平成 27 年4月1日から平成 27 年7月 31 日までの報告受付分)
(13) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況(平成 27 年8月1日から平成 27 年 11 月 30 日までの報告受付分)
(14) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況(平成 27 年 12 月1日から平成 28 年3月 31 日までの報告受付分)
(15) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況 (平成 29 年4月1日から平成 29 年7月 31 日までの報告受付分)
(16) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況 (平成 29 年4月1日から平成 29 年7月 31 日までの報告受付分)
(17) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況(平成 30 年 12 月1日から平成 31 年3月 31 日までの報告受付分)
(18) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況(平成 31 年4月1日から令和元年7月 31 日までの報告受付分)
(19) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況 (令和元年8月1日から令和元年 11 月 30 日までの報告受付分)
(20) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況 (令和元年8月1日から令和元年 11 月 30 日までの報告受付分)
(21) 製造販売業者からの国内副作用等報告の状況 (令和2年 12 月1日から令和3年3月 31 日までの報告受付分)
セレブロシドに関する日本語の論文情報
84 α-ガラクトシルセラミド投与マウスにおけるIFN-γ非依存的気道炎症抑制(動物モデル1,一般演題(デジタルポスター),第57回日本アレルギー学会秋季学術大会)
藤田 浩之, 田村 結城, 池澤 善郎, 石井 保之 アレルギー 56 (8-9), 1097-, 2007 DOI 医中誌
アトピー性皮膚,皮脂欠乏性皮膚などに対するセレブロシド含有クリーム外用の試み
浜中 すみ子, 氏原 真弓, 内田 良一, 三村 邦雄 皮膚 37 (5), 619-625, 1995 DOI 医中誌
**植物由来グルコシルセラミド中のスフィンゴイドジエンの構造特性と皮膚改善機能**水野 雅史, 久世 雅樹 コスメトロジー研究報告 28 140-147, 2020医中誌
**酵母由来グルコシルセラミドの腸内細菌叢の変化による皮膚機能改善効果**福永 祥子 長野県立大学 2019-04-01 - 2022-03-31 (科研費)
高桑, 直也 北農 86 (1), 18-21, 2019-01type:論文日本農学文献記事索引
清水 孝治 鹿児島大学 2017-04-01 - 2020-03-31 (科研費)
鳥家 圭悟, 川嶋 善仁, 大戸 信明, 野嶋 潤, 池岡 佐和子, 田邊 瑞穂, 木曽 昭典 日本化粧品技術者会誌 50 (4), 306-313, 2017.DOI Web Site
食事性グルコシルセラミドによる皮膚バリア機能の改善と大腸炎の緩和・抑制
川田,実生, 浅沼,成人 明治大学農学部研究報告 65 (4), 83-93, 2016-03-31type:Article
1P-157 白麹菌グルコシルセラミドがヒト表皮角化初代培養細胞の皮膚バリア機能の遺伝子発現に及ぼす影響の解析(醸造学,醸造工学,一般講演)
藤川,彩美, 尾上,貴俊, 北村,整一, 鍔田,仁人, 浜島,弘史, 戸田,修二, 北垣,浩志 日本生物工学会大会講演要旨集 67 128-, 2015-09-25NDLデジタルコレクション 医中誌
米由来グルコシルセラミド経口摂取による皮膚バリア機能強化とそのメカニズム (特集 セラミド研究の新展開)
寺澤 周子 Food style 21 : 食品の機能と健康を考える科学情報誌 17 (3), 80-82, 2013-03医中誌
阿部 美紀子, 大嶋 恵理子, 酒井 祥太, 平林 義雄, 土田 哲也, 濱中 すみ子 日本女性科学者の会学術誌 12 (1), 32-43, 2012
石川 准子, 高田 真吾, 橋爪 浩二郎, 高木 豊, 堀田 光行, 渋谷 祐輔, 増川 克典, 北原 隆, 五十嵐 靖之
脂質生化学研究 50 143-145, 2008-06-05医中誌
犬慢性アトピー性皮膚炎における経口グルコシルセラミド使用の1例小沼 守, 小野 貞治, 上木 万里子, 久山 昌之 獣医臨床皮膚科 14 (2), 81-83, 2008.
**タモギタケエタノール抽出物のアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた保湿作用およびアトピー様症状に対する作用**冨山 隆広, 海方 忍, 石田 真己, 西川 英俊, 山崎 則之, 辻 潔美, 光武 進, 五十嵐 靖之 日本栄養・食糧学会誌 61 (1), 21-26, 2008.
石橋 睦子 東京女子医科大学雑誌 74 (8), 503-504, 2004-08
**(10)アトピー性皮膚炎患者皮膚に存在する新規酵素,グルコシルセラミド・スフィンゴミエリンデアシラーゼの性状解析(学位論文内容の要旨および審査の結果の要旨 第42集(平成15年5月))**樋口 和彦 東京女子医科大学雑誌 73 (8), 288-289, 2003-08-25
**バリア障害を示す皮膚疾患-グルコシルセラミドの役割-**濱中すみ子 皮膚臨床 45 1685-1692, 2003医中誌
アトピー性皮膚炎でのバリアー異常をもたらすセラミド減少の生化学的メカニズムの解析
石橋 睦子 東京女子医科大学 2001 - 2002 (科研費)
セレブロシドに関する英語の論文情報
[Improvement of the Skin Barrier Function with Physiologically Active Substances].
Tokudome Y. Yakugaku Zasshi. 2019.PMID: 31787643 Free article. Review.Japanese.
Glucosylated cholesterol in skin: Synthetic role of extracellular glucocerebrosidase.
Boer DEC, et al. Clin Chim Acta. 2020.PMID: 32946792 Free article.
**Skin** lipids from Saudi Arabian birds.
Khan HA, et al. Saudi J Biol Sci. 2014.PMID: 24600311 Free PMC article.
Fukunaga S, et al. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2018. PMID: 30175789 Free article.Clinical Trial.
Distribution and metabolism of sphingosine in skin after oral administration to mice.
Ueda O, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2010. PMID: 20877136 Free article.
Duan J, et al. Exp Dermatol. 2012.PMID: 22621186
Incorporation of 14C-linoleic acid in cerebrosides of psoriatic and normal human skin.
Rüstow B, et al. Arch Dermatol Res. 1981.PMID: 7283471
Oral intake of beet extract provides protection against skin barrier impairment in hairless mice.
Kawano K, et al. Phytother Res. 2013.PMID: 22949397
Cheng K, et al. J Agric Food Chem. 2018.PMID: 30044633
Salicyloyl-phytosphingosine: a novel agent for the repair of photoaged skin.
Farwick M, et al. Int J Cosmet Sci. 2007.PMID: 18489360