甘草フラボノイド
甘草フラボノイドとは
甘草フラボノイドは、マメ科植物カンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis、Glycyrrhiza glabra、英名:licorice)の根および根茎から得られる植物エキスです。甘草フラボノイドは主にフラボノイドからなる油溶性抽出物で、カンゾウ根エキスとは成分や作用が異なります。
カンゾウ(甘草)は中国からヨーロッパ南部にかけて分布している多年草で、日本でも薬草園などでいくつかの種が栽培されています。地下浅くにストロンと呼ばれる茎を伸ばして広がっており、根と茎には強い甘味があるため、甘草(カンゾウ)という名前が付きました。含有するグリチルリチンはショ糖の150倍以上の甘味を有しており(1)、食品用の甘味料として使用されることもあります(2)。
生薬としてのカンゾウ
カンゾウの根およびストロンを乾燥させたものは、生薬として甘草(かんぞう)の名前で知られています。
「生薬の王」とも称されている甘草は、約4000年も前から薬用植物として使用されてきました。古くは紀元前18世紀のハンムラビ法典をはじめ、紀元前3世紀のヒポクラテス全集や中国最古の薬物書『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』にも収載されています。
甘草の主な薬効としては、顕著な胃液分泌抑制作用、消化器性潰瘍(かいよう)の治癒促進、鎮痙(ちんけい)、鎮咳(ちんがい)などが知られています(3)。また、息苦しさの防止や解毒、喉の痛み止め、消炎などにも効果があります。主要成分のグリチルリチンには、副腎皮質ホルモン作用、特にアルドステロン様の作用や抗炎症、抗アレルギー作用が見出されています(4)。
漢方では、甘草には他の生薬の働きをたかめたり、毒性を緩めたりする「調和」作用があり、もっとも多くの漢方薬に配合される生薬です。甘味には心身の緊張を緩める作用があり、甘味の強い甘草には精神状態を安定させる働きがあります。消化管や下肢、尿管などの身体の筋の緊張を緩めるためにも使用されます(5)。
甘草フラボノイドの成分
甘草フラボノイドの成分には、
・フラボノイド:glabridin, licochalcone A
などが含まれています(6)。
甘草フラボノイドの化粧品への配合
甘草フラボノイドに含まれているフラボノイド成分のグラブリジンやリコカルコンなどには、抗チロシナーゼ(抗メラニン生成)作用、ホスホリパーゼA2阻害(抗炎症)作用、テストステロン5αレダクターゼ阻害(抗脱毛症)作用、ヒアルロン酸活性作用などが知られています。そのため、美白、抗炎症、育毛、シワ予防、ニキビ予防などを目的として広く化粧品に配合されています(6)。
参考文献
(1) 伊沢凡人, 他 (1999)「カンゾウ」カラー版薬草図鑑, 82-83
(2) 指田豊, 他 (2013)「カンゾウ」身近な薬用植物, 255
(3) 伊藤美千穂, 他 (2017)「ウラルカンゾウ」生薬単, 148-149
(4) 水野瑞夫, 他 (2014)「カンゾウ」くらしの薬草と漢方薬, 136
(5) 田中耕一郎 (2020)「甘草」生薬と漢方薬の事典, 45
(6) 鈴木一成 (2008)「甘草フラボノイド」化粧品成分用語事典2008, 263
甘草フラボノイドの配合目的
抗メラニン生成作用抗炎症作用抗脱毛症作用ヒアルロン酸活性作用
甘草フラボノイドの安全性情報
https://online.personalcarecouncil.org/ctfa-static/online/lists/cir-pdfs/FR442.pdf
甘草フラボノイドに関する日本語の参考論文
72 甘草フラボノイドによる接触皮膚炎の1例(皮膚アレルギー(アトピー性皮膚炎を除く)1,一般演題,第21回日本アレルギー学会春季臨床大会)
杉浦 真理子 , 杉浦 啓二アレルギー 58(3-4), 406, 2009
甘草フラボノイド画分の新たな皮膚科学的有用性 ニキビに対する効果:ニキビに対する効果
神原 敏光 , 周 艶陽 , 川嶋 善仁 , 岸田 直子 , 水谷 健二 , 池田 孝夫 , 亀山 孝一郎 日本化粧品技術者会誌 37(3), 179-186, 2003
甘草フラボノイドに関する英語の参考論文
Chen Y, Agnello M, Dinis M, Chien KC, Wang J, Hu W, Shi W, He X, Zou J.PLoS One. 2019 Aug 23;14(8):e0221756. doi: 10.1371/journal.pone.0221756. eCollection 2019.PMID: 31442287 Free PMC article. Clinical Trial.
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