合成ワックス/SYNTHETIC WAX
合成ワックスとは
合成ワックスは、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)法、またはエチレン重合法で得られる炭化水素系ワックスです。
ワックスは古代から知られている物質ですが、ワックスの構造は、一般に認められていません。
ワックスは、構造を示す名称ではなく、典型的な性状を示す有機化合物を、広く表現する名称で、物理的および機械的特性で定義されています。
ワックスの物理的特性は、固体であり、融点が40℃以上あること。融点より10℃高い温度での粘度が10 Pa·s以下であり、溶融粘度が低いこと。分解することなく溶融すること。弱い力で磨け、燃やすと炎からススが生じること、と定義されますが、ワックスと有機高分子化合物との違いは、明確になっていません(1)。
世界で最初の合成ワックスは、1926年にドイツで合成されました。
F.FischerとH.Tropschが公表したので、フィッシャー-トロプシュ(Fischer-Tropsch)法の名前がついています。この合成法を用いて得られる合成ワックスは、この2人の名前を冠して「フィッシャートロプシュワックス」と呼ばれます。
「フィッシャートロプシュワックス」は、現在でも南アフリカのサゾール社が、天然ガスを原料として製造しています。
その後、エチレン重合法が開発され、割安な製造方法として採用されています(2)。
合成ワックスは、化学的に安定性が高く、高硬度および高融点であり、またツヤ感を有していることから(3)使用感の改良と形状の維持のために、スティック状のファンデーションや口紅をはじめとして多くの化粧品に配合されています。
また、乳化された化粧品にツヤ感を出すために、マスカラ、チーク、ファンデーションなどにも広く使われています。
また、合成ワックスは化粧品の立体成型の際にも使用される。乾式成形法においては、成形時に粉体内の空気の残存により、成形後に割れるなど、耐衝撃性が弱くなるキャッピング現象が起こることがあります。
それを防ぐために合成ワックスを添加し、耐衝撃性を向上させるために成形助剤として合成ワックスを配合する方法があります(3)。
また、古い角質を物理的に除去するスクラブは、従来、合成ワックスより高分子であるであるポリエチレンが使用されていました。
しかし、環境保護意識の高まりに伴い、2016年以降ポリエチレンの使用が減少し(4)、その代替品の一つとして、融点が高く熱安定性に優れた合成ワックスが、スクラブとして、古い角質を除去するスクラブ剤として用いられることがあります。
FDAによると、単位用量あたりの最大効力は、経口で0.02mg、経皮吸収ではクリームとして1.5%(質量百分率)です。毒性についての報告はありません(5)。
参考文献
(1)ビックケミー・ジャパン株式会社「ワックス添加剤」
(2)加藤洋行「フィッシャー・トロプシュワックス」
(3)友重 徹, 他(1977)「合成ワックス」高分子(26)(9),637-642
(4)株式会社三菱ケミカルリサーチ(2017)平成28年度国内外におけるマイクロビーズの流通実態等に係る調査業務報告書
(5)WAX FDA_IID WAX_IID202101
合成ワックスの配合目的
感触の改良
形状維持
スクラブ効果
合成ワックスの安全性情報
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.3109/10915818409010516
https://online.personalcarecouncil.org/ctfa-static/online/lists/cir-pdfs/PRNS475.pdf
合成ワックスに関する日本語の参考論文
Fischer-Tropsch ワックスの水素化分解・異性化反応によって得られる燃料油留分の性状と分子構造
小林 学 , 十河 清二 , 石田 勝昭 Journal of the Japan Petroleum Institute 49(4), 194-201, 2006-07-01
Fischer-Tropsch ワックスの分解・異性化により製造した潤滑油基油の粘度特性と分子構造
小林 学 , 斉藤 政行 , 石田 勝昭 [他] , 谷地 弘志 Journal of the Japan Petroleum Institute 48(6), 365-372, 2005-11-01
友重 徹 , 藤井 弘保 高分子 26(9), 637-642, 1977
白石 慶子 , 高畠 英伍 衛生化学 21(2), 60-65, 1975
合成ワックス友重 徹, 藤井 弘保高分子1977年 26 巻 9 号 637-642 https://doi.org/10.1295/kobunshi.26.637
合成ワックスに関する英語の参考論文
Bekker M, et al. Int J Cosmet Sci. 2013. PMID: 23551222
Microencapsulation of retinyl palmitate by melt dispersion for cosmetic application.
Nandy A, et al. J Microencapsul. 2020. PMID: 32039634
Human synthetic sebum formulation and stability under conditions of use and storage.
Wertz PW. Int J Cosmet Sci. 2009. PMID: 19134124
Exchange interference for a range of partially deuterated hydrocarbons using a GC-EI-MSD.
Shafer WD, et al. J Mass Spectrom. 2018. PMID: 30171826
Wenning L, et al. Microb Cell Fact. 2019. PMID: 30857535 Free PMC article.
Rissmann R, et al. Biochim Biophys Acta. 2008. PMID: 18655769 Free article.