リン酸アスコルビルMG/MAGNESIUM ASCORBYL PHOSPHATE
リン酸アスコルビルMgとは
リン酸アスコルビルMgは、成分番号 552733、INCI名 Magnesium Ascorbyl Phosphateであり、アスコルビン酸のリン酸エステルのマグネシウム塩であり、次の化学式で表されます(1)。
医薬部外品原料規格では、「リン酸L-アスコルビルマグネシウム」英名:Magnesium L-Ascorbyl-2-Phosphate、別名:リン酸L-アスコルビン酸エステルマグネシウムとして収載されています(2)。
アスコルビン酸は、ビタミンCとも呼ばれる物質です。
様々な効果があるといわれるビタミンCですが、水に溶解すると不安定で、有効性を保ったまま化粧品に配合するのは困難でした。
リン酸アスコルビルMgは、アスコルビン酸のリン酸誘導体で、熱や光に安定性が高い水溶性の物質です。
本品は皮膚からの吸収性が高く、生体内のホスファターゼにより速やかにアスコルビン酸に分解され、アスコルビン酸として働きます。
構造中に水はありませんが、水分を含有しており、医薬部外品原料規格では、水分は29%以下と規定されています(2)。
医薬部外品への承認としては、皮膚適用の医薬部外品のクリームにおいて有効成分としてと、薬用歯みがき類に有効成分として配合された前例があります(4)。
リン酸アスコルビルMgは、製剤化する際に配合に注意する必要がある物質です。
過去、製剤中で結晶の析出がおこり、クラスⅡの回収が発生した事例があります(5)。
リン酸アスコルビルMgの配合目的
美白作用
コラーゲンの合成促進
抗酸化作用
働きと用途
リン酸アスコルビルMgは、クリーム、化粧水、パウダーなど様々な剤形の化粧品に安定に配合することができます(3)。
期待される働きは、美白に対する複合的な作用、コラーゲンの合成促進、抗酸化作用があげられます。
このうち、美白に関する効果についてですが、メラニンの合成機序を最初に説明します。
皮膚は、紫外線によって皮膚上に活性酸素が発生します。
その活性酸素が、表皮と真皮の境界にある基底細胞にあるメラニンを生成する細胞(メラノサイト)内で化学反応を促進し、黒色メラニンが合成されます。
その合成工程を簡単に説明すると、最初に、アミノ酸の一種であるチロシンに活性酵素(チロシナーゼ)の結合でドーパが生成します。ドーパがドーパキノンへと変化し、最終的に黒色メラニンが合成されます。
リン酸アスコルビルMgは、この黒色メラニン合成工程の中で働いているチロシナーゼの抑制と、黒色メラニンを還元して褐色のメラニンに変化させる作用があります。
リン酸アスコルビルMgの安全性情報
https://www.cir-safety.org/sites/default/files/ascorb002019SLR.pdf
リン酸アスコルビルMgは、10年以上の使用実績の期間に大きな副作用が出ていません。
また、眼刺激がわずかにあるほかは、皮膚柄の刺激やアレルギーの発症リスクも、ほとんどありません(7)。
化粧品へ配合されている量を通常の方法で使用すれば、安全に使用できると推察します。
参考文献
(1) 日本化粧品工業連合会 リン酸アスコルビルMg 平成13年3月6日付医薬審発第163号・医薬監麻発第220号厚生労働省医薬局審査管理課長並びに同監視指導・ 麻薬対策課長通知
(2) 医薬部外品原料規格
(4) 薬事・食品衛生審議会 化粧品・医薬部外品部会 議事録(2015年11月9日) (mhlw.go.jp)
(5) 回収概要 (mhlw.go.jp)(クラスII)販売名 : 薬用ホワイトニックC クリアミルク
(7) 田川 正人, 他(1989)「リン酸L-アスコルビルマグネシウムの化粧品への応用」日本化粧品技術者会誌(23)(3),200-206.
リン酸アスコルビルMgに関する日本語の論文情報
ビタミンC誘導体のイオントフォレーシスによる色素斑に対する臨床効果
船坂 陽子 , 松中 浩 , 榊 幸子 , 山村 達郎 , 山本 麻由 , 錦織 千佳子 皮膚の科学 4(3), 299-308, 2005 J-STAGE
研究開発情報 水溶性ビタミンC誘導体(リン酸L-アスコルビルマグネシウム)の高濃度安定化技術の開発
三井 幸雄 ファインケミカル 31(4), 13-19, 2002-03-01
紫外線B波照射による皮膚障害に対するリン酸L-アスコルビルマグネシウム投与の効果
小林 静子 , 伊東 忍 , 小方 英二
日本化粧品技術者会誌 31(3), 304-310, 1997-09
道喜 角史 , 戸谷 永生 日本化粧品技術者会誌 32(1), 17-25, 1997 J-STAGE
リン酸L-アスコルビルマグネシウムの美白作用 (メラニン色素の制御と美白剤の開発) -- (第2章 最近の美白剤の研究開発の動向)
村田 友次 , 田村 博明 フレグランスジャーナル臨時増刊 (14), 151-155, 1995
Concentre Anti-Tache Nuitのソーラーシュミレーター光による遅延型色素沈着に対する美白効果の検討
川田 暁 , 白石 葉月 , 浅井 睦代 , 荒金 兆典 , 手塚 正
皮膚 43(1), 5-9, 2001J-STAGE
メラニン産生に及ぼすリン酸L‐アスコルビルマグネシウムの抑制効果
田川 正人 , Bucks Daniel , Blanock Kurt , 村田 友次 , 大沼 俊雄 , 亀山 孝一郎 , 酒井 智恵 , 近藤 滋夫 , 米元 康蔵 , Quigley John , Dorsky Albert 日本化粧品技術者会誌 27(3), 409-414, 1993 J-STAGE
高橋 和彦 , 宇治 謹吾 , 丹羽 昭子 , 松本 宏一 日本化粧品技術者会誌 24(1), 27-30, 1990 J-STAGE
田川 正人 , 宇治 謹吾 , 田端 勇仁 日本化粧品技術者会誌 23(3), 200-206, 1989 J-STAGE
トコフェロールの酸化防止効果向上に関する研究 (第19報):低温におけるβ-カロテン添加硬化パーム核油に対するレシチンまたはステアリン酸L-アスコルビルとの相乗効果
青山 稔 [他] , 丸山 武紀 , 兼松 弘 , 新谷 〓 , 塚本 正人 , 東海林 茂 , 松本 太郎 油化学 38(1), 72-77, 1989 J-STAGE
リン酸アスコルビルMgに関する英語の論文情報
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Lauroyl/palmitoyl glycol chitosan gels enhance skin delivery of magnesium ascorbyl phosphate.
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